2016年4月30日土曜日

デジタルポメラDM-100

~テキスト原稿の素材かき集めツール~

まずポメラはPDAに仲間入りできるだろうか。

スケジュール機能は一応あるが、それぞれの日付にテキストファイルを埋め込むのみだ。(埋め込むだけだと言っても、そこが秀逸なのだが)
スケジュールは忘れやすい。忘れないようにするためにメモする。それなら紙の方が有利だ。にもかかわらず、電子的なスケジュールに記載するのは、ちょっと面倒でも付加価値があるからだ。例えばアラームで教えてくれるとか、打ち込んだスケジュールを他の人と共有できたり、自分のスケジュールを他の人が打ち込んでくれたりすることを共有できるからだ。
ポメラ自身にはネットワーク機能は基本的にはなくて、スケジュールなのか日誌なのかわからないが、カレンダーに無秩序にテキストを打ち込んでいくだけだ。どこで改行してもいいし、時間の幅やアラームを設定することもない。月スケジュールでは冒頭のテキストさえ表示しない徹底ぶり(?)である。

次に、連絡先。連絡先はやはり重要なデータベースだ。自分の納得のいく項目で整理し、必要に応じてCSVなどで出力してエクセル等で加工する基礎データにしたい。年末になると、このファイルを利用して年賀状を書くこともある。
ポメラにはこれらの機能はない。テキストエディタと友にCSVファイルを扱って編集できるというものはある。しかし表示する際にはセルの固定ができない。なので、右や下にスクロールしなければならない状況になったら、もうそれぞれの項目名がわからず、打ち込みようもない。せっかくCSVを扱えるようにしたのに、使えない機能である。
スケジュールが時間軸に沿っているものではないので、TODOリストがあったとして当然連動しない。ここに仕事りすとを記載していったとしても、仕事をしながら開けにくい蓋をあけてTODOリストのファイルを開いて進行状況を確認するだなんてまずしないだろう。ポケットにも入れられないデバイスを肌身離さず持ち歩くなんて無理だし、ここに仕事リストを記載するべきではない。
メモは取れるのか。もちろんとれる。しかし、様々なテキストファイルを保存しておいても、全てのファイルの中から検索語を含んだ部分を抽出してくれるわけではない。正直、これではせっかく打ち込んだテキストデータを生かす意味がわからない。メモは、自分さえ忘れがちなものだ。だからメモするのだ。なのに、全てのメモに対して自分の検索語を入力して探すことができないのだ。これなら、ノートにメモしてぱらぱらめくった方がはるかに早くメモが見つかる。

ポメラの画面は決して大きくもない。私はA7サイズのメモ帳をいつも持ち歩いているが、これを広げたA6サイズよりも小さな画面だ。せめてキーボードの幅の分だけ画面も広げて欲しかったが、ほとんど使わない物理的なショートカットスイッチがディスプレイの面積を占領してしまっている。
打ちやすいキーボード幅に、従来の規格の液晶モノクロディスプレイをはめ込んだ結果、こんな感じになったのだろうか。

「哀愁のPDA」というタイトルの、直球でど真ん中をいく哀しすぎるデバイスだ。こんなにノルタルジックなPDAの臭いをぷんぷんさせて、かつての黄金モノクロ液晶時代を彷彿させておきながら、これは全くPDAとは呼べない代物なのだ。

何に一番近いのだろうか。使ってみたところ、これは「言葉のデジカメ」なのかと感じた。
デジカメで移した映像はしばらくデジカメにためておくが、ある程度データがたまったら全部パソコン等に移動させてそちらで管理する。そこから見返したり、加工することもあるが、いったんパソコンに移動させた写真データをわざわざもう一度デジカメにもどして鑑賞したり加工したりはしないだろう。
ポメラも使い方は同じかと感じる。その瞬間に思ったことや感じたことを、紙ではなくてテキスト入力する。おそらくは紙にメモしてもいいのだろうが、後で清書しなければならなかったとしたら、人によっては最初からキーボードで打ち込んだ方がスムーズに記録できるしパソコンに移動させてから加工できるから便利だという人もいるだろう。(私はそっち)

インターネットにも全くつながらないこのデバイスだが、割り切って使う場合には恐ろしく便利である。

まず、電源が長持ちする。全く消耗を気にしなくて良い範囲である。しかも乾電池を取り替えられる。ノートパソコンやケータイにキーボードを接続してライティングしていると電源の消耗が気になる。ライティングするときは思ったことがどんどんわき出てくることもあるが、たいていは内容を練るのに時間がかかる。時間のほとんどは書いたり消したり考えたりする無駄にも思える時間だ。この迷っている時間はかなり長時間に及ぶこともある。この長い長い瞑想の時間を、ノートパソコンやケータイは落ち着いてやらせてくれない。満充電になったeneloopを使えば、力つきるまでライティングしたとしてもゲージが減ることさえない。ゲージが減るとすればFlashAirCardを使う時くらいだろう。

そして、この形状。蓋は開けにくく、しかも開けたと思ったら反対側で指を挟む。何度もこのギミックに痛い思いをしながらも、ライティングしはじめると、うまくできていることに気づく。キーボードの幅は正直、もう少し狭くてもいい。モバギは16.5mmで絶妙だった。ポメラは17.0mmで、横に14個のキーがあったとしたらあと15mmも幅を縮められたと思う。しかし、膝に乗せて打つには、そもそもこの幅から出発してキーの数で割っていくのだろう。モバイルシーンでテーブルがあたることは意外と少ない。椅子さえあれば両手でスムーズにライティングできるかどうかは実はかなりキーボードデバイスにとって重要である。最近はタブレットにキーボードを一体化して2in1とかいって売られているが、使い勝手が悪い。自分が見やすい位置までディスプライを傾斜させられないものが大半なのだ。ディスプレイがキーボードよりも重くなりがちなので、そんな状態になる。そんな物で長時間作業ができるはずもなく、結局はキーボードから取り外してタブレットだけ手で持って見ることが多くなる。そうしている内にキーボードとタブレットは別々の場所にあることになり、いちいち合体することが面倒になる。合体ロボは結局こんなものなのだ。
苦肉の策でディスプレイの背部に脚をつけて倒れないように支えているものが多い。大人気のマイクロソフトSurfaceもその1つだが、ベンチに座りながら両手でテキスト入力できるものにはならないのだ。どんなに高機能であっても、素朴なデジタル文具にかなわない面も多いのだ。

電源をつければすぐに使えるというコンセプトはどのデバイスもクリアしつつある。今はWindouwsでさえ数秒でスタンバイから立ち上がる。ケータイだってもちろんそれができなければ売れない。しかし、ポメラは2秒ほどかかるにも関わらず、不思議にずば抜けて速く感じる。それはなぜだろうか。それは、テキストエディタの他にソフトがほとんどないからかと感じる。ほとんどのデバイスは高機能になり、多くのソフトを動かせる。そのために、かえって目的のソフトとデータにたどり着くのに遠回りする。歯医者に行って、受付をして、名前を呼ばれるまでの数分間、ベンチに座って原稿書きの続きを即座に行い、名前を呼ばれたら間髪入れずに返事をしてすぐに立ち上がって医師のところへ行く。診察が終わったら支払いの間にその続きを少し打つ。こんなことをしながら自宅に帰るまでにけっこう仕事が片づいている。そんな使い方がさくさくとできるのはDM100だからだろう。入力中に言葉の意味を調べるにも、パソコンやケータイであれば、いったんホーム画面にもどり、別なソフトを立ち上げて調べてから、またソフトを切り替えて入力をはじめる。面倒な範囲ではないが、ハードウェアボタン一発で辞典が出てきて、Escボタンで編集に戻れる機敏さはないだろう。

文書は全くの白紙から作っていく場合もあるが、ほとんどの場合は今まで作った文書を再編集して作成する場合も多い。そんな時にポメラは弱い。なので、ポメラで編集した文書は何らかの形でどんどんクライドにあげてしまうのがいいだろう。そうすればいつでもケータイで参照できる。ケータイで参照できれば、ダウンロードしたテキストファイルをもう一度ポメラに戻して編集することもできる。
(Bluetoothでポメラ本体からケータイに転送することは可能だが、その逆はできたりできなかったりする。何が原因か? USBケーブルがあればまちがいなくできるが、、、)

FlashAirCARDを使えばEvernoteにも転送できるが、相変わらずその逆ができない。なので、こいつはデジカメと同じなのである。そう割り切って使えばかなり使える。一度書いた文書を再編集するのではなくて、0から文書をひねり出す時に使えという感じである。

幸いか不幸か、ケータイを誰もが使う時代になった。ポメラも、ネットワークはそちらにお任せという割り切りなのだろう。なので、ケータイとはうまく連動させるべきだ。ケータイ(アンドロイド)にESファイルエクスプローラをインストールし、ポメラにBluetoothで接続してしまえば、ポメラの本体にあるテキストファイルをいきなりクライドサービスに転送することができる。そうすれば、インターネットに接続している全てのコンピュータ等で続きを編集できるようになっている。ケーブルも何もいらない。すごいじゃないか。
更に、ケータイしかない時には、ケータイの貧弱なワープロに貼りつけて、ポメラを外部キーボードにして体裁を整えながら編集ができる。ケータイのワープロソフトは不完全なものなので、後でパソコンで印刷前に再度体裁を整える必要があるが、A4の紙の中にどのように収めていくかは文書を作る場合に重要なので、アバウトに出来るだけでも助かる。テキストエディタだけではなかなか気づけない部分だ。このようにポメラはプラスアルファの機能をちょっとだけ提供している。

もう一つ重要な特徴として、インターネットには接続していないという面がある。今や子ども用のゲーム機でさえインターネットに接続している時代。パソコンに重要な個人情報を入れて持ち運ぶことはできなくなった。しかし、ポメラの本体に入れて持ち運ぶことはポメラにパスワードを設定するかぎり、かなり安全である。個人情報は紙にかかずに、ポメラの本体に入れる。SDカードだと盗まれて引き抜かれた時に読まれる可能性があるが、本体はほぼ不可能だろう。これに進入できるハッカーはいるのだろうか。紙の手帳でさえ盗まれたらアウトだというのに、ポメラは今時すごい奴である。

白黒の液晶は地味に見やすい。屋外でも見やすい。バックライトの照度を自由に変更できるので、室内でももちろん見やすい。照度を上げたからといって、バッテリーもほとんど消耗しない。夜になって視力が下がってくるとテキストの大きさを変更できる。

液晶はタッチパネルではない。なので、ショートカットキーを覚えていく必要があるが、使えば使うほど上達してスムーズに扱えるようになる。逆に言うと、キーボードで全ての操作ができるので、液晶をタッチしたりマウスに手を伸ばしたりする必要が全くない。このテキスト入力の妨害になる要素がないところが結局、秀逸なのである。

最初にけなしてしまったスケジュールソフトだが、これが実は地味にいい。スケジュールソフトは制約が多すぎて自由に記載できない。どうしてもアラームを鳴らしたければその件だけケータイのスケジュールソフトにいれればいいのだ。スケジュールソフトに入れてしまった過去のデータはソフトが変更になる度に苦労してテキストとしてエクスポートしていたが、ポメラのスケジュールは日付のフォルダの中に日々の日誌が自動的にテキストファイルとして保存されている。これらは簡単にパソコンに転送して保存できるし、パソコンに保存できればgrep検索もできる。人生の思い出となる、いい日記帳として活躍してくれるだろう。

とはいえ、改善してほしい面もある。ハードウェアーが優れていても、ソフトの使い方は人それぞれだ。会社がいいものと思って提供しても、ユーザーは人それぞれ使う場面が異なるので、ソフトの選択ができないのは辛い。私は表を扱う事が多いので文字罫線を引くメニューを追加してほしかった。しかし、これはハードウェアーとソフトが一体化してしまっているのでメーカーがよほどの対応をしてくれないかぎりどうしようもない。ユーザーのレベルでは解決しないことだ。
QRコードはアンドロイドユーザーには全く無縁だ。他の機能に割り当てたい(特に2画面編集)ところだが、それもできない。実に残念だ。(今からでも対応してくれない?)

ついでに言うと、Evernoteに転送するのは便利だろうか?
Evernoteはワープロほどの高機能もないし、エディタほどのシンプルさもなく、どうも中途半端で使えない印象を持っている。私はSimplenote派だ。
Evernoteに転送ではなくて、登録した相手(数カ所でもよいので)に即座にメールを送る機能が欲しかった。
Evernoteに投函したい人は自分のEvernoteあてにメールを送れば同じことができる。
自分宛にメールを送れば自分のテキストデータに加工できるし、ポメラから直接メールを送信できるなら使用範囲が明らかに広がっただろう。
少なくとも自分宛にメールを送ることだけでもできれば、例えガラケーを使っていても読めるし、そこからどこにでも転送できるのだ。
CSVファイルの扱いも非常に惜しい。

と、文句も言ってはみたものの、現在はポメラで原稿を書き上げてからパソコンやケータイに転送して加工して使っている日々が続き、これが実に快適で面白い。
購入する前は機能の割に高いなと思った面もあったが、時代に流されずに長く使い続けることができる名機になることは間違いないだろう。購入してまだ1ヶ月にも満たないが、すでにもとをとってしまったほどの勢いで使用できている。これは凄いツールだと久々に感じている。